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2017/10/28

漁場予測と安定的で持続可能な漁船漁業経営


1.はじめに

 私がこのテーマを選択した理由は、二年次の航海実習での釣果があまり上がらなかったためだ。そこから、カツオ・マグロがどこに潜んでいるのか、船員さん達は何を見て漁場を判断しているのかなどの漁場予測に興味を持った。もともとSPHの研究で漁場予測の研究を行っていたことを知っていたので、このテーマを引き継ぎ、研究することにした。

2.研究方法

 (1)過去の研究について
   ア.エビスくんについて
   イ.Dr.省エネについて
   ウ.漁場予測とは
 (2)漁場予測について
   ア.漁場の要素について
(ア)水産技術研究所での漁場予測の説明会
    (イ)第一音代丸へのインタビュー
(ウ)漁場の要素
   イ.月ごとの漁場の変化について
(ア)過去データの比較
(イ)QRYデータとは
(ウ)5~6月にかけてのカツオ・マグロ漁場の変化
   ウ.漁場予測位置と漁場の比較
   エ.漁場予測
 (3)プランクトンと漁場の関係について
   ア.仮定
   イ.実験方法
   ウ.実験結果
(ア)海洋プランクトンについて
(イ)クロロフィル増加実験について
   エ.次回の実験に向けて
(ア)水産技術研究所からのアドバイス
(イ)実験方法2
(ウ)実験方法3
 (4)漁船漁業経営について
   ア.Dr.省エネの利用
   イ.Dr.省エネを用いたシミュレーション
    (ア)航行距離の差
    (イ)削減燃料・金額について
   ウ.展望

3.研究結果

 (1)過去の研究について

ア.エビスくんについて

 エビスくんとは、漁業情報サービスセンターが運営しているサイトである。衛星を用い、海象情報、波高、気圧配置、風向、風速などの気象・海象情報を提供している。

イ.Dr.省エネについて

 Dr.省エネとは、漁船の大きさ、速度、航海時間などによる燃料消費の特徴を把握して、省エネに効果的な方法を見つけるため、さまざまな漁船で調査したソフトである。

ウ.漁場予測とは

 これまでの漁業では、漁労長が長年の経験と勘で漁場を決めていた。近年では人工衛星を用い、リアルタイムでの気象・海象を知ることが可能になったことにより、過去の漁場のデータや他船の漁獲データを参考に漁場を予測することが可能になった。それらのデータを用い、探し回ることなく漁場に直行する技術を漁場予測という。

(2)漁場予測について

ア.漁場の要素について

(ア)水産技術研究所での漁場予測の説明会

 水産技術研究所では、大漁案内人3の精度を上げる研究を行っている。そこでは、過去のQRYデータと海況、漁獲情報と海況などを比較することによって漁場の特徴を割り出している。比較するデータは水温や潮流、塩分などと多くあったが、クロロフィルa濃度のデータにあまり参考にしていないという話を伺い、今回の研究ではクロロフィルa濃度と漁場の関係について研究することにした。

(イ)第一音代丸へのインタビュー

図1
 説明会より、漁場に特徴があることがわかった。しかし、実際の漁船はどのようにして漁場を探すのかと考え、第一音代丸(三重県のカツオ一本釣り船 図1)の船頭さんに話を伺ってきた。
  第一音代丸では、漁場予測ソフト(トレダス、CATSAT)のデータを参考に表面水温、水層水温、海面高、クロロフィルa濃度、過去の漁場データなどの現地の海況を見ながら漁場をさがすそうだ。

(ウ)漁場の要素

水産技術研究所と第一音代丸の漁場の特徴にはいくつかの共通点があった。そこで、いくつかの漁場の特徴をピックアップし漁場予測のデータと比較した。そこから漁場の要素を調べていくことにした。

イ.月ごとの漁場の変化について

(ア)過去データの比較

 過去の漁場の位置データは漁場の特徴の中でも重要視されていた。そこで、過去のQRYデータを用い、月ごとの大まかな漁場の位置を調べた。
  1. QRYデータとは(図2)
    図2
 QRYデータとは、日付、海区、船名、船位、水温、漁況をエクセルでまとめたものである。

(ウ)5~6月にかけてのカツオ・マグロ漁場の変化

図3
  平成2628年の実習船やいづ二次航のQRYデータを用いる。その日に釣れた緯度、経度を地図にプロットし、約一ヶ月間の漁場の範囲を調べる。
図4

平成26年 6月11日~6月22日(図3)
平成27年 5月14日~6月1日(図4)
平成28年 5月9日~6月1日(図5)
図5

図6
三年分の範囲を重ねると図6のようになり、北緯30度~40度、東経140度~160度の範囲であることがわかった。
 平成27年、28年は主に5月、平成26年は6月であることより、漁場は5月から6月にかけて東方に展開していくことがわかった。また、平成27年と28年を比較したところ、エルニーニョ、ラニーニャが関係していることがわかった。
  今後の展望としてより多くのデータを比較し、年間の月ごとの大まかな漁場の位置、エルニーニョやラニーニャなどの自然現象などによる漁場の変化を把握したい。

ウ.漁場予測位置と漁場の比較

  漁場予測と実際の漁場の位置を比較することにより、漁場の特徴を調べた。今回は、表面水温と潮流に着目して実験を行った。使用したデータは、平成28年6月18日の漁場予測図(図7)、同日の水温潮流図、QRYデータである。漁場予測図の予測 位置と実際の漁場の位置を水温海流図にプロットするという方法で比較を行い、平成28年6月27日、平成28年6月30日のデータでも同様の方法で比較した。
 平成28年6月18日のデータをプロットした結果、図8のようになった。黒丸が漁場予測の位置、白丸が実際の漁場の位置である。これらの結果より、
漁場は黒潮系暖水の西よりである、表面水温20度程の潮目である、2度程の差がある潮目であることがわかった。 
 今後の展望として、天候や透明度、水層水温などの比較する漁場の要素を増やし、より多くの漁場の特徴を調べたい。
図7

 エ.漁場予測

図8
漁場の特徴が少しわかったため、実際に漁場予測を行った。今回は過去のデータを用い、実際の漁場と比較した。使用したデータは平成28年6月22日の水温図とQRYデータである。水温図に自分たちで予測した位置をプロットし、その後実際の漁場の位置をプロットした。
  結果は図9のようになった。黒丸が漁場予測、白丸が実際の漁場の位置である。
西方の漁場予測はほぼ正解であったが、東方の漁場予測は水温が少し低かったため漁場にならなかったと考えた。
 今後の展望として、参考にする漁場の特徴を増やし、より正確な漁場予測にしていきたい。

(3)プランクトンと漁場の関係について

ア.仮定

図9
 クロロフィルa濃度と漁場の関係を調べるために一つの仮定を立てた。
 そもそもクロロフィルaとは植物に含まれる葉緑体の色素である。
まず、植物プランクトンが集まる。すると、植物プランクトンを捕食するために動物プランクトンが集まる。次に、動物プランクトンを捕食するために小魚が集まる。最後に、小魚を捕食するためにカツオ・マグロが集まる。そこから、クロロフィルa濃度から漁場が形成されるまでのおおよその時間がわかるのではないかと考えた。
今回はこのプロセスの鍵である、植物プランクトン及び動物プランクトンの増加傾向を調べることにした。

イ.実験方法

 そもそも漁場にどのようなプランクトンが存在するのかを調べるため、海洋観測の際にプランクトンネットを引き、海水を調べた。
 次に、実験のためのプランクトンを採取するため海水を汲んだ。そして、その海水5mlに含まれる植物プランクトン、動物プランクトンの数を顕微鏡により計測した。採取した海水は二つの容器に分け、光を当てていないものと対照させるために片方を遮光ネットにより遮光する。
  その容器を蛍光灯に当て、1、5、48時間後の5mあたりの植物プランクトン及び動物プランクトンの数を計測し、そのデータよりプランクトンの増加傾向を調べた。

 ウ.実験結果

図10
(ア)海洋プランクトンについて

   プランクトンネットを約3分間引き、採取できたプランクトンの種類を調べた。採取できたプランクトンのうち、植物プランクトンはウミサボテン、ケイソウ、動物プランクトンはケンミジンコ(図10)、エビの幼生、イカリムシ、ヤコウチュウである。

図11
(イ)クロロフィル増加実験について

    実験結果は表のようになった。グラフ(図11)からわかるように植物プランクトンと動物プランクトンのどちらにも増加は見られず、実験は失敗に終わった。また、今回の実験では天候に恵まれず太陽光での実験が行えなかったため、次回は太陽光での実験も行いたい。

エ.次回の実験に向けて

(ア)水産技術研究所からのアドバイス

今回の実験の失敗を受け、その原因を水産技術研究所の今井さんに質問した。                       
  失敗の原因は大きく3つあった。
まず1つ目は、プランクトンが環境に適応できなかったことである。プランクトンはデリケートな生き物らしく、飼育するためには温度管理やエアレーションの必要がある。今回の実験では温度は一定になるようにしたが温度自体は管理しておらず、エアレーションもなかったため、十分に考えられる原因である。
2つ目は、プランクトンが餓死してしまったことである。動物プランクトンは食欲が旺盛であり、短時間で多くの植物プランクトンを捕食する。そのため、プランクトンを飼育する際にはケイソウを餌として与えるが、この実験では与えなかったため、これも考えられる原因のひとつである。また、プランクトンの増加はグラフのようになっており、植物プランクトンが減少し動物プランクトンが増加しているタイミングで採取してしまうと、餓死してしまうまでの期間が早まることがわかった。
3つ目は、計測方法が悪かったことである。正確なクロロフィルa濃度を計測するためには、分光光度計などの機器が必要である。今回の実験では5mlあたりのプランクトンの数で計測したため、正確なデータではないと考えられる。
  1. 実験方法2
  水産技術研究所のアドバイスを参考に、今回の実験方法を改良した。
  まず、飼育環境をペットボトルより大きい容器に替え、エアレーションを取り付ける。実験は日光の下で行い、1、5、48時間後の海水を冷凍する。冷凍した海水は陸に持って帰り、解凍し分光光度計によりクロロフィルa濃度を測定する。正確なクロロフィルa濃度を測定するため、実験の際にケイソウなどの餌は与えない。
  この方法は、今回の実験よりも正確なクロロフィルa濃度を測定することが可能であるが、餓死の防止などができないためあまり期待できない。

図12
(ウ)実験方法3

   船上でのプランクトンの飼育は困難である。そのため、飼育することはあきらめることにした。
   方法としては、過去のクロロフィルa濃度のデータ(図12)とQRYデータを用い、漁場とクロロフィルa濃度の関係から、漁場が形成されるクロロフィルa濃度の特徴と漁場が形成されるまでのおおよその時間を割り出す。
  この方法は、実験ではないが漁場が形成されるまでのおおよその時間はわかると考える。しかし、これを行うためには多くのデータと時間を費やす必要がある。そのうえ、天候によってクロロフィルa濃度のデータがとれていないものもあるため、正確な結果が出るかは微妙なところだ。

 (4)漁船漁業経営

図13
ア.Dr.省エネの利用

 漁場予測を用い、実際にどれだけの燃料を削減することができるのかを調べるために、Dr.省エネを使用した。
  Dr.省エネを使用するに当たって、はじめに船のデータを入力した。今回は実習船やいづのデータを使用し、平均速力は12ノットとした。図13はDr.省エネに実習船やいづのデータを入力したときの画像である。

イ.Dr.省エネを用いたシミュレーション

実習船やいづで焼津港から北緯39度、東経45度の漁場に向かうシミュレーションを行った。

図14
(ア)航行距離の差

 まず、漁場予測を使用しなかった場合、航路は図14のようになり、航行距離は約720海里となる。
 次に、漁場予測を使用した場合、漁場まで直行することができるため航路は図15のようになり、航行距離は660海里となる。
図15
 二つを比較すると、漁場予測を使用した方が80海里近くなったと言える。

(イ)削減燃料・金額について

 1時間あたりの燃料消費量を167Lとする。
漁場予測を使用しなかった場合、720海里/12ノット×167L/h=10,020Lの燃料を使用したことになる。また、漁場予測を使用した場合、660海里/12ノット×167L/h=9,185Lの燃料を使用したことになる。よって、漁場予測を使用することで835Lの燃料が削減できると言える。
 A重油1Lを100円とすると、削減金額は83,500円となる。

ウ.展望

 シミュレーションにより、漁場予測を使用することで燃料の削減が可能であることがわかった。そこで、航行距離などのデータを用い、燃料費や釣果などの支出と収入を求め、漁船漁業経営をシュミレーションし、漁業の利益をどれだけ増加させることができるかを計算したいと思う。

4.考察

 まず漁場予測について、過去の漁場のデータが漁場を予測するにあたってとても重要であることがわかった。しかし、今回行った5月から6月にかけての漁場のデータは3ヵ年分であり、把握できていることにも偏りがある。そこで、より多くの年数分の漁場の位置、年間を通した漁場の移動を調べ、より確実性のある漁場の要素を見つけたい。
 次にプランクトンと漁場の関係についてであるが、はっきりとした関係を見つけることはできなかった。しかし、クロロフィルa濃度の衛星写真と漁場には共通点があったので、それを明らかにしていきたい。今回の実験を通し、実験前にプランクトンの飼育・増殖が可能であるかなどを調べていなかったなどの反省点もあったので、来年度の3年生には注意してもらいたい。
 最後に漁船漁業経営について、漁場予測を使用することで漁業経営を効率化できることがわかった。展望のシミュレーションで具体的な削減金額が出てくることを利用し、漁場予測を使用するメリットを漁業者に伝えられれば良いと思う。

5.感想

  まず、この研究は私たちで3年目であるが未完成である。中途半端な状態で終わらせるわけにはいかないので、是非後輩に引き継いでもらいたい。

 この研究はとてもやりがいのあるものだった。課題を終わらせても、また新しい課題が生まれる。もしかしたら終わるような研究ではないのかも知れない。しかし、やらなくてはいけない研究だと思う。魚の需要が高まりつつある中、資源量は減少している。そんな中で、若い魚を避け成魚だけ漁獲することができれば、資源量の減少を抑えられるはずだ。資源量の問題は全世界で取り組んでいかなければならない課題である。その課題に、漁業者の観点で取り組むことができ、とても良い経験になったと思う。また、課題研究の内容を漁場予測と安定的で持続可能な漁船漁業経営を引き継いで良かったと思った。

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